第6話  流紋岩魚「上」


山のたれ水に暮らす岩魚との戯れ




 うーん、雨は止みそうか、私は前日、何度も天気予報を確認していた。117からインターネットの情報までチェックしていると、どうも雨は翌午前3時で止むらしい。大阪では、すでに深夜の時点で雨は止んでいたが、滋賀県はまだ少し降っているようだ。まぁ、着いた時点で降っていても午前中には止むに違いない。そう判断した私は4時に出発した。
 八日市インターを下りて永源寺町へと車を走らせるのだが、山並みは雲に覆われ正面には何も見えない。そう、滋賀県では、まだ雨が降っていたのである。雨と言っても霧雨程度のものなので気にはしなかったのだが、入渓場所に到着し、支度に掛かっていると小雨と分かるものに変わってきた。仕方ないので渋々レインコートを羽織り、薄暗く細い杣道に入った。
 樹林によって雨が遮られ、もう止んだのかと錯覚を起こしそうになるが時折、木の葉に滴った雨滴が大きな粒になって落ちてくる。竿を出す場所までは、一時間以上の歩きを強いられるので、これは厄介だなと思いつつも、それほど苦でもなかった。と言うのもこの谷は渓相、渓魚、歴史、どれを取っても素晴らしく、数ある鈴鹿の渓の中でもお気に入りの谷のひとつなのである。
 無斑岩魚(ムハンイワナ)、流紋岩魚(ナガレモンイワナ)という岩魚をご存じだろうか。

 渓流釣りの中でも岩魚好き、山釣りを嗜まれている方はおそらく一度は耳にした事があるかと思うが、岩魚の種も今日では様々なものが確認されており、それらの中でも珍種岩魚の代表的なものである。私もこのところ対象になる渓魚が岩魚になるといった山釣りが多いため、いい機会なので少し触れてみる事にしよう。
 両岩魚とも山形県など東日本の渓流でも棲息の事例は上げられているが私は他府県の事はよく存じ上げないので、滋賀県の渓に絞って話を進めたい。

 昭和30、40年代に様々な釣行文とともに雑誌等に名を連ねた渓師によると、愛知川上流にはこの珍種の岩魚が棲息していたという。無斑岩魚というのは名前のごとく岩魚独特の斑点が全くないもので、背に僅かな虫食状の模様を持つものもある。かつては花崗岩質の白っぽい岩が特徴である神崎川やその周辺の谷に棲息していたらしく、10尾に1尾は、その岩魚が釣れたらしい。

 流紋岩魚はパーマークはなく、体に細長く不規則に湾曲した濃色の流れ模様を持った岩魚である。姉川上流のとある谷には現在も棲息していると耳にするが、かつて棲息していた愛知川支流のある谷には、今はその影を見る事は無い。もっともその昔、流紋岩魚が居た愛知川支流の場合は姉川と違い普通の岩魚と混在していたので絶対的な数は少なかったようである。
 どちらにしても稀少魚である事には変わりなく、滋賀県は流紋岩魚を保全すべき渓魚と記していることもあり、万が一、釣り上げた時にはそっと流れに戻す事をお願いしたい。無斑岩魚、流紋岩魚は歯科医師でもあった武田恵三氏が最初の報告者になっている。鈴鹿の渓はこの特殊な岩魚達が幻の岩魚として現在も語り継がれている。
 この谷が、かつてその流紋岩魚(ナガレモンイワナ)が棲息していた谷である。渓は標高1076メートルの銚子ケ口を源に長い流れを持っている。様々な歴史を持ち杠葉尾集落と縁の切れない谷である。現在下流は岩魚の養殖場があり、上流2kmは委託管理という形で、管理釣り場が運営しているため、上流漁協管轄の滝上でなければ自然釣りは出来ない。

 また2kmの釣り場の上流域は数年前から1日4人限定、予約制のフライフィッシング専用区となっており、餌釣りは出来ない。餌釣りの人は魚を持ち帰る傾向が強いので、とにかくきれいな魚を釣りたいというフライフィッシャーのためにC&R制にし設置をしたという。
 まぁ、結構な代金を支払って釣りをする訳なので持ち帰るのも自然であるような気がするのだが、確かに普通の渓でもFFの釣り人は餌釣りに比べて100%C&Rを推奨する者が多く、テンカラを含めて釣りに対して総体的に技術を追求する人が多い傾向にあるように思う。

  それぞれスタイルというものが異なるので双方を天秤にかける事は勿論、乱獲は問題外だがC&Rについても正論の是非を問う事も難しい。 私もFFには興味が湧かないのだが純和風の香りがするテンカラには以前から少し興味がある。しかしなかなか行動が伴わず餌竿の先に毛鉤を付けて遊んでいる程度のものである。
 この管理釣り場の主は岩魚に詳しい。昭和40年頃に醒井養鱒場からニジマス・アマゴを譲り受けて養殖を始められた。ご存じの通り、愛知川上流域では林道、伐採、砂防ダムの建設により、天然の岩魚が年々減少してきたことを機に、岩魚の養殖を始められ、昭和45年に日本では初めての岩魚の養殖に成功したらしい。イワナは季節感の強い魚であるがゆえに色んな苦労もあった事という。

 現在では年間30万尾を養殖しており、鈴鹿の渓に岩魚を戻そうと協力的な部分もあって個人的に善意放流のための稚魚を分けてもらいに来る人もいるらしい。善意放流と聞けば個人的に費用を負担して山奥へ放流するので、一見すると聞こえは良いが間違った解釈をすると困るので少し添えおこう。

 本来、渓に放流をするには内水面漁協の許可がいる訳で、どんな魚であっても勝手に放流はできない事になっている。善意放流は魚がいなくなった渓流に昔の自然を取り戻したいがために子孫を残そうと行っているのか、自分たちがただ釣りのために行っているのか、そうなれば、ほとんどのケースが後者であろう。こうなれば放流そのもの自体も少し考えなくてはならない。

 谷の途中で釣り上げた魚を滝上に源頭放流するなら何ら問題はないと思うが、どこかの養殖場で分けてもらった魚をその渓に棲む渓魚の種も理解せずに、隠し谷でも持とうかと放流するのは決して共感できるものではない。谷の滝上にも以前は放流している方がちらほらと居たようである。管理釣り場の岩魚であれば種はまったく問題ないであろうが、放流自体も三年続けて行わないと岩魚はそこには居着かないらしい。私も素人ながら渓魚を少しでも増やそうとする事に関しては賛成派である。しかし実際は漁協がもっと放流密度を濃くしてくれたらいいのに、皆そう思っているかもしれない。
 前日、久しぶりに管理釣り場の主に電話をし今日、上流に入ると告げる。何でもまれに密漁と言うか、黙って入渓し、管理釣場の領域で勝手に釣りをする輩がいるようで、広場や駐車場に顧客と思われない車が止まっていると従業員が見回りに出されるらしく、上流域は漁協の管轄なので関係ないと言えばそうなのだが、それも酷なので一言告げるようにしている。管轄と言ってもこの場所への放流は全くないので名だけのものではあるが。

 杣道を歩き出して10分と経たぬ内に渓の流れへと出る。向こう岸へ渡り、また踏み跡を確認しながら先へと歩く。
 さすがに雨と言えど歩き出した体の火照りにレインコートが拍車を掛けてくれる。ちょっとこれは暑い...すぐさま、レインコートを脱いで改めて出発。
  やがて谷を左に見ながらの踏み跡となる。しかし30〜40分歩くと釣り場の終点を告げる滝に出くわすのだがどうもおかしい。歩きながら少し訪れていない間に渓相が変わったな等と考えながらも、とにかく先に進む事に専念していたのか、間違うはずの無い場所なのに気付かなかった。
 誤って支谷の別れに入ってしまったと気付いた時には休憩しながらと言う事もあって、すでに一時間以上歩いていた。
 よくよく考えれば、釣り場を示す看板や標識もなければ、水も涸れすぎている。結局、本谷の踏み跡まで戻ると二時間のロスであり、ウォーミングアップと言うには少しばかり疲れが大きすぎた。気を取り直し、少し重い足を引きずって杣道を歩き出す。
 ところどころには登山道、管理釣場を示す小さな標識、看板が立っている。これやこれや、これやがな。しかしこの渓はなかなかの美渓で自然味溢れ、我々山釣りを好む者にとっては管理釣場にしておくのは勿体無いと、いつもながら思う。
 さすがにずっと歩き通しているので徐々に足が重くなってきた。朝の歩き出しはいつもの事ではあるが今日はまた別物。ノドも渇いたし、ちょっと一服しようとザックを下ろしてビールを取り出し、雨ながらに心地良い気分に浸っていたがその直後、気分はおろか足の疲れも吹き飛ぶような出来事に直面した。
 ヒルが私のウェーダーに貼り付いているではないか。しかも一匹ではない。数匹が私の露出する肌を目がけてノリのいいリズムを刻みながら這い上がってきている。そろそろとは思っていたが気温も低いので今日は大丈夫だろうと安心していたのに。やはり雨の日は彼らの絶好の舞台のようだ。

 とは言え鈴鹿山系の渓はヒルが多い事で有名なのだが何を隠そうこの谷はその中でも半端な数ではない。川に浸っていれば少しはマシであるが藪漕ぎするしないに関係なく、山道を歩いているだけで知らぬうちにべったりと貼り付いてくる。盛期にはそれはもう何とも言えぬ状態で地べたを這い蹲るヒルの群れに必ずと言っていいほど合う。別に咬まれたからどうという事はないにしても血を吸われるというのはどうも腑に落ちない。

 ヒルは前後の吸盤で吸い付き、ヒルジンという体液を出すためそのせいで血がなかなか止まらなくなる。けっこうな量の血が流れ出るので、初めて経験する人は少し驚くだろう。吸い付いているのを発見したら、出来る事であれば、指先で弾いたり引っ張って取らぬ方が良い。そうするとヒルの口器が皮膚内に残る事が多く、人によれば化膿する場合もあるようである。一番最適な方法は塩をかけるか、タバコの火を当てればポロリと落ちる。しかしこのヒルというのは、ほんの小さい隙間をこねって侵入してくるので、どこをやられてしまうか分からず非常に厄介なものである。止血の方法はとにかく水でよく傷口を洗って、タバコの葉などを擦り込むと良い。とにかく、これといった防止策はないので、こまめにチェックするほかないのが現状である。ちなみに私の場合は夏でもウェーダーの下には薄手のズボン下を必ず履いている。

 ヒルの出現で、ゆっくり休憩はおろか、こまめなチェックを強いられるワケで、うかうかと歩いてられない。振り払えど振り払えど5分も歩かぬうちに、また足下から上がってくる。どうにもたまらない。
 自ずと私の歩く歩幅は広がり、速度も上がっていた。ヒルの群れに合いながらも、ようやく釣り場終点の滝へと取り付いた。

 人がいるようだ、ん?餌釣り?、、、
 年の功は50代といったところ、私に気付いたのか「全然あかんわ、こまいのばっかりで」 と促してきた。どうも管理釣り場の客ではなさそうである。全然あかんと言う前にここはFF専用区であり、餌釣り禁止と道中に看板まであるのに、どういう神経をしているのだろう、私はその方が先に立った。

 私は管理釣り場で遊んでいるワケでなく、私が意見する筋合いでもないので「上流の滝へ行きますんで」といい残し、滝を巻こうとガレ場を登り始める私に「上流の滝までどのくらいの時間がかかるんですか?、どこから行くんですか?、そっちに山道があるんですか?」と訪ねてくる。

 「滝までは20分くらいですかね、山道は左右にあるんですわ」と実際、滝までは小一時間ほど掛かる上、踏み跡は左右にないのだが、まぁいい加減な返答をし、これ以上不快感を味わいたくないので、そそくさ退散する。男性は「私も滝まで行くかもしれません」と言っていたが、私は急なガレ場を息を切らしながら、それは無理だろうと薄笑いを浮かべた。
 滝の上は徐々に高度を保ち、小滝や淵、廊下が連続するまさに渓流美と言える素晴らしい風景が待ち構える。

 流勢も逞しく支谷によく見受けられる渓畔林、原生林といったブッシュがあまりなく、比較的長竿が有効に使用できるので竿が振りやすい。
 今日はあいにく雨なので、暗いイメージが永遠と続き、野生動物に遭遇する事もなく、小鳥のBGMも控えめであり、グァーッとカエルの響きが代わりの役目を果たしている。陽光を浴びる日和であれば、ヒルの群れに合う事を除き、丸一日その魅力を満喫できる。

 この辺りから始めようか、30分ほど歩いたところで竿を伸ばす。落ち込みによる気泡が溢れる中へ糸を垂らしてみた。
 目印が一瞬揺れて、フケる道糸がピンと張りつめる。谷の岩魚と言わんばかりの5寸ほどのサイズが上がった。どういうワケか餌はぶどう虫に分がある。キジは食いが悪い。

 しかし、それぞれの落ち込みに岩魚は必ず居着いている。サイズは普通の谷より少し大きめの6寸くらいが多い。水量がそこそこ豊富なせいもあって育つのだろう。
 ただここの岩魚は流して釣るというより岩盤の間に餌を落とし込んで、潜んでいるものを誘うといったような釣り方が有効のようだ。
 普通に流すとアタリが全く出ないが落とし込むようにすると次々に釣れる。今日は雨ということもあって火が起こしにくいので、久々に1〜2尾、程良いサイズが上がれば持ち帰って酒の肴にしたいなと思うのだが、なかなかそのサイズは上がらない。
 すでに10匹は釣っているのに。
 次第に水面に雨の波紋が多くなってきた。少し雨が強くなってきたようだ。汗を拭こうと首に掛けていたタオルに手をやると冷たくなっていた。いつの間にやらザックにもかなりの水がしみ込んでおり、衣類もじったりとしている。
  右頬にチクッと違和感を感じ、手を触れるとグニャッと柔らかい感触が、、また鈴鹿名物の仕業である。危ないところだった。首に巻くタオルを手に取り、大きく祓ってまた首に巻き直す。「ひっ〜ぃ、冷たい...」
 ふと横に目を向けると大岩にぽっかりと大きな穴が開いている。いかにも何か獣の住処というようで不気味であった。
 さすがに五月と言えど、雨のうえに気温が低く、山奥と来れば、けっこう寒さを感じる。歩き続けていれば問題ないのだが、立ち込んで目印を追っていると冷え込みは高まる一方。これは、いかんとまたリュックからレインコートを取り出してベストの上から羽織る。やはり持ってきていて良かったと、しみじみ感じる。
 岩魚は遊んでくれるので気分的に満足感はあるのだが、如何せん寒さとヒルの群れに、なかなか他の物にまで目がいかない。川通しに足を浸す事さえ、苦痛に感じてくる。酒や、酒。スキットルボトルを取り出しバーボンをグイッとひとのみする。ジンワリと腹の中が熱くなるのを感じる。「くっー、旨い!」
 長続きはしないがこれだけでも随分と違うものだ。
 大岩を登りきると右手に大きな浅い溜まりが見えた。
お、滝か淵やな。
 左から大きく場荒れしないようにアプローチすると左奥に小滝が勢いよく轟いており、その落ち込みが低い三段のひな壇になって大きな淵を構えている。
 しかし両側は絶壁の崖でありアプローチは不可能で正面は水深があるし、魚に気配を感じられる。また後ろからだと絶好のポイントには届かない。右岸は全く登りも不可能なので左岸から近づいて対岸を向きながらポイントに竿を振ったのだった。

 2〜3投してみたがアタリがないので再度、振りこんでダメなら先へ進もうと思い、餌を送り込むと「ググッ」とアタリが出た。
 すばやく後退して正面へと体制を移動し引き上げる。岩魚は水中をもがきながら手前へ寄ってきている。その時だった。その掛けた岩魚をまるで獲物のように追いかけて来る黒い影が走った。
 !? かなり私の近くまで寄ってきたその黒い影は私の存在に気が付いたのか「クルッ」と向きを変えて淵の深みに消えて行った。
 気を取られている間に掛けた岩魚までもバレてしまったではないか。

 何や今の、、、尺はあったはず。私は呆然と立ちつくしてしまった。
「おるな、主」どうやら大物が居着いているようだ。
 攻めにくい場所ならではの大物の住処か、よし勝負しようか。久しぶりに見た思わぬ岩魚に心は掻き立てられた。私は仕掛けを変えて、また先程と同じようにポイントへ糸を垂らす。シズを変え、ラインを変え、また餌を変えするがなかなか食ってくれない。
長期戦は覚悟のうえと、冷たい水に膝まで足を浸し何度も繰り返し探る。寒さも限界に達してきたその時「グンッ」とアタリが出た。
しかし手応えは尺クラスではなかった。釣り上げた7寸の岩魚を魚籠に入れ、私はその主との駆け引きを続けた。
 竿を何度も振るうちに私は流紋岩魚だったら等と少し非現実的な事を考えていた。いや、というより私の中ではその黒い影は流紋岩魚になっていたのだ。
 結局、20分ほど粘ってみたが、どうも食ってくれないようなので諦めて先に進む事にする。後から考えれば釣れても釣れなくてもどちらでも趣を感じる事はできるのである。
 気が付けば、いつからなのか分からないのだが左足の膝の裏側の筋を痛めていた。歩く度にその場所に激痛が走り、私の遡行を妨げてくれる。
 この辺りからの遡行は、ところどころ登山道の踏み跡らしきものはあるのだが不明瞭なものが多く、また消え失せる箇所もあり、けっこう急なガレ場や地盤の悪い場所を歩かねばならない。しかも雨ときているので足を乗せた瞬間に崩れる崩れる。うかうかしてると大事故になってしまう。慎重になるが故にそれで痛めたのだろうか。午後1時を回って雨はほとんど止んでいた。

 ちょうどいいので食事にしようと少し拓けた場所に腰を下ろす。冷たい風が私を取り囲み、なかなか体温は回復してくれない。目の前に小さな落ち込みがあったので、湯が沸く間に少し糸を垂らしてみようと思い、中腰になり、餌を送り込んだ。
 1.2.3と数えたくらいか、「ピクンッ」と竿にアタリが伝わる。
 お、良い手応えだ。
  上がってきたのは7寸を少し超える鮮やかな岩魚だった。ここで釣れる岩魚は全体的にきれいなものが多いが、今日手にした中でも最もきれいであった。鮮やかな橙色の斑点をちりばめ、口元は野生味あふれ、成熟を感じさせる精鋭な歯がむき出している。
 今日は寒さと水分、いやビールを飲み過ぎているせいなのか、あまり空腹感が無く、食事も思うようにノドを通らず、極軽い食事を済ませ、また上流へと歩き出した。
 時に渓は険しくなり岩滝を乗り越えなければならず足の痛みは増すばかり。しかし、こんなところにまで、釣り人のものであるべくゴミが見受けられる。ハリの袋や、中でも驚いたのは岩と岩との間にブドウ虫の空箱が3〜4箱袋といっしょに放置されている。何を考えているのだろうか、盆暗が多くて困る。

 高度が上がり出し、やがて私の頭上に濁音が聞こえた。まず三メートル弱の小滝が出迎えてくれ、その先には勢いを止めない二段の大きな滝が立ちはだかる。ここの釜はかなり水深があり、大物でも潜んでそうなのだが足場も悪くアプローチしにくいためか岩魚はなかなか掛からない。

 滝を巻けば落差は無くなり、また歩きやすい渓相になるのだが足の痛みを考慮すれば、帰路の時間にも若干の余裕を見なければならない。

 竿をたたむ私の心にはまだ不十分な余韻が残っていた。源流の旅はまだまだ続く。
第六話 完
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